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2020/7/25 安楽死 [考える]

2019年11月30日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の当時51歳の女性患者に薬物を投与して殺害したとして、2020年7月23日、京都府警は2人の医師を嘱託殺人の疑いで逮捕した。
(嘱託殺人とは、被害者に依頼されて殺人を実行すること)

私の記憶にある過去の2件の安楽死事件。

東海大学安楽死事件
1991年4月13日、多発性骨髄腫で入院していた患者に塩化カリウムを注射して死亡させた。
判決:懲役2年執行猶予2年

川崎協同病院事件
1998年11月2日、気管支喘息重積発作患者に筋弛緩薬を注射して死亡させた。
判決:懲役1年6ヶ月執行猶予3年

東海大学安楽死事件の判決では、医師による積極的安楽死として許容されるための4要件として、

1 患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること
2 患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
3 患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くしほかに代替手段がないこと
4 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること

を挙げた。

この2件の「安楽死」は、本人の「死にたい」という意思の確認が取れない状況で、家族の「楽にしてあげたい」という強い希望のもとに行われた。
本人の意思確認がないことが有罪の根拠であり、家族の強い希望に逆らえずに止むを得ず行ったことが酌量したポイントだと思われる。

今回のALSの事例ではどうだろう。
患者は四肢が動かせない状態ではあったが、人工呼吸器はつけておらず、病状は安定していたという。
SNSを通して、医師へ安楽死の希望を伝え、費用を送金していた。

4つの要件のうち、
1 耐えがたい肉体的苦痛はなかったと思われるが、精神的な苦痛は耐えがたいレベルだったかもしれない。
2 ALSは、治療法が見出されていない難病であり、「死を避けられない」病気であるが、新聞記事をみる限り、死期が迫っている状態ではない。
3 安楽死を容認するほどの肉体的な苦痛(痛みや呼吸苦)はなかったと思われる。
4 ○

前の2つの事件と比べてみると、この4つの条件自体に矛盾を感じる。

耐えがたい肉体的苦痛を伴うほど病気が進行すると、自ら「意思表示」することすら難しくなる。
逆に冷静に意思表示できる段階では、まだ死ぬまでに余裕がある。

また、前の二つの事件では、苦しんでいる患者を目の前にして、家族から「お前は医者だろ、苦しがっているじゃないか、なんとかしろよ」と執拗に迫られて、半ば脅しに負けて実行してしまったとも推察される。

今回の事件は、本来の「安楽死」に近いと思う。
この先、耐えがたい苦痛が避けられないことを知って、その前に命を終わらせるという選択だ。

頭の中では認めていても自分の手で実行したら犯罪者になってしまうから、しない、というのが「常識的な」医師の判断だろう。
今回の事件で逮捕された2人の医師は、確信犯といえる。たとえ有罪になっても、自分のしたことは間違っていないと信じているだろう。

賛否両論、ケースバイケース、なかなかすっきりと決められない問題だが、日本人の性格として、より安全な、批判されない方を選ぶ傾向があり、今回の事件も時間が経てば忘れられ、問題は前に進まないだろう。

死は、全ての人に訪れる。楽に死ねると思わないほうがいい。
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